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東京地方裁判所 昭和42年(ヨ)2398号 判決

債権者 田中宏 外七名

債務者 学校法人青葉学園

主文

債権者岡田、成田、平部、松田、大坂、宮島が債務者に対し労働契約上の権利を有することを仮りに定める。

債務者は、昭和四一年九月一六日から本案判決確定に至るまで毎月末日限り、債権者岡田に対し一ケ月五六、八四〇円、同成田に対し一ケ月二七、四七〇円、同年一二月一六日から本案判決確定に至るまで毎月末日限り、同平部に対し一ケ月三七、五八〇円、同松田に対し一ケ月三七、九八〇円、同大坂に対し一ケ月三一、八六〇円、同宮島に対し一ケ月三一、六七〇円をそれぞれ仮りに支払え。債権者松田のその余の申請および債権者田中、福永の本件申請はいづれも却下する。

申請費用中、債権者田中、福永について生じた分の各二分の一は同債権者らの負担とし、その余は債務者の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立て

一、昭和四一年(ヨ)第二、三三七号事件

(債権者ら)

債権者田中、福永、岡田、成田が債務者に対して労働契約上の権利を有することを仮りに定める。

債務者は、昭和四一年九月一六日から本案判決確定に至るまで、一ケ月につき、債権者田中に対し三一、四〇〇円、同福永に対し三八、三〇〇円、同岡田に対し五六、八四〇円、同成田に対し二七、四七〇円を、毎月末日限り仮りに支払え。

申請費用は債務者の負担とする。

(債務者)

本件申請はいづれもこれを却下する。

二、昭和四二年(ヨ)第二、三九八号事件

(債権者ら)

債権者平部、松田、大坂、宮島が債務者に対して労働契約上の権利を有することを仮りに定める。

債務者は、昭和四一年一二月一六日から本案判決確定に至るまで、一ケ月につき、債権者平部に対し三七、五八〇円、同松田に対し三八、四八〇円、同大坂に対し三一、八六〇円、同宮島に対し三一、六七〇円を、毎月末日限り仮りに支払え。

申請費用は債務者の負担とする。

(債務者)

本件申請はいづれもこれを却下する。

申請費用は債権者らの負担とする。

第二、債権者らの主張

一、申請の理由

(一)  債務者学園(以下「学園」という。)は、昭和二二年二月私立学校法に基づく学校法人として設立せられ、短期大学、高等学校、中学校(以上いづれも女子)および幼稚園を設置しているところ、債権者田中、同福永は同三八年四月一日、同岡田は同二三年四月一日、同成田は同四〇年四月一日、同平部は同三〇年四月一日、同松田は同三八年四月一日、同大坂は同三九年四月一日、同宮島は同四〇年九月一日、いづれも中学、高校の専任教諭として学園に雇傭された。

(二)  学園は、債権者田中、福永、岡田、成田を同四一年八月一三日付で、その余の債権者らを同年一一月二九日付で、それぞれ懲戒免職したと称し、その後教諭としての就労を拒否している。右各日時当時における債権者らの給与月額は、田中は三一、四〇〇円、福永は三八、三〇〇円、岡田は五六、八四〇円、成田は二七、四七〇円、平部は三七、五八〇円、松田は三八、四八〇円、大坂は三一、八六〇円、宮島は三一、六七〇円であり、学園における給与の支給は、前月一六日から当月一五日までの分を毎月二二日に支給する定めである。

(三)  そこで、債権者らは債務者に対し、労働契約上の権利を有することの確認と賃金支払の本訴を提起すべく準備中であるが、債権者らは賃金のみによつて生活を維持している労働者であるから、本案判決の確定を待つていては、その生活上著しい支障を蒙り、回復しがたい損害を受けるおそれがある。

よつて、本申請に及んだ。

二、抗弁に対する答弁

(一)  冒頭の事実中、学園がその主張日時にその主張する理由があるとして債権者らに対して懲戒免職の意思表示をしたことは認めるが、債権者らに懲戒事由に該当する行為があつた点および雇傭契約終了の主張は争う。

(二)  債権者らに対する懲戒事由として主張されている事実のうち、団扇、ビラ、リボン((一)の(1)の(ロ)、(ハ)関係)を用い、父兄、生徒あてに若干の文書を発送したこと((一)の(1)の(ニ)、(ホ)関係)、学園の施設の一部を使用したこと((一)の(1)の(ヘ)関係)、七月一四日の吉田教諭の発言について同月一六日教職員にビラを配布し、職員会の決議により青葉学園教職員一同名義で緊急総会を開催する旨の通知を発したこと((一)の(1)の(ト)、(2)の(チ)関係)、同月一七日右総会次いで一九日役員会が開催され、同月一九日副会長名義で臨時総会の通知が発せられ、翌二〇日右総会が開催されたところ、その際山田事務員が講堂に「使用禁止」の貼紙をしたこと((一)の(2)の(リ)、(ヌ)、(3)の(ワ)関係)、債権者岡田が他の教職員とともに丹羽校長補佐に対して吉田発言につき理事長の確認書を取るよう要請したこと((三)の(ロ)関係)、債権者平部、松田、大坂、宮島が学園の主張するように三軒茶屋駅附近の街頭等で文書を配布したこと、債権者松田、大坂、宮島がそれぞれ八月一三日学園から懲戒されたこと、以上の事実は認めるが、その余はすべて否認する。

三、抗弁に対する反論と再抗弁

(一)  債権者らに対する本件各免職処分は、次に述べるところから明らかなように、債権者らが分会の組合員であり、労働組合の正当な行為をしたことを理由として、同人らを学園外に放逐しようとする意図によるものであるから、労組法七条一号の不当労働行為として、また、歪曲、ねつ造した事実に基づく恣意的な処分であるから、懲戒権の乱用として、無効というべきである。

(二)  分会の結成と債権者らの組合活動

(1) 学園理事長兼校長の広川弘禅(昭和四二年一月七日死亡)は元自由党代議士で農林大臣などの経歴を有し、理事兼副校長の広川志津江も自民党都議会議員の肩書をもち、学園は創立以来右広川夫妻によつて独善的に経営されてきたところ、理事長らは、学園の教育内容、教育水準の向上に意を用いることなく、もつぱら外観的拡張、見せかけ的設備にのみ過大な投資を行ない、徹底した営利主義的経営を一貫し、教師の自主性を無視し、夫妻の選挙シーズンには多数の教職員を選挙運動に動員する等して学園の私物化をはかり、教師の労働条件も劣悪を極めた。

(2) かような劣悪な労働条件を改善し、学園および教育の民主化をはかるため、債権者田中、福永、松田、宮島らは、昭和四〇年九月三〇日個人加盟の東京私学単一労働組合に加入するとともに分会を結成し、同四〇年四月初め頃には専任教諭の大部分が加入して、組合員数は四十数名に達したところ、田中は分会長、福永、松田は副分会長、宮島は教宣部長次いで同四一年八月一三日の債権者田中らに対する免職処分(以下「第一次処分」という。)後は分会長として、組合活動の中心的役割を果してきた。その余の債権者らは分会の平組合員であるが、組合幹部に同調して組合活動を行ない、そのうち債権者岡田は、校長補佐に次ぐ教務筆頭の地位にあつたが、同四一年六月分会に加入して活溌に活動した。

(三)  学園の分会に対する攻撃とこれに対する闘い

(1) 分会は同四一年四月六日学園に対して組合のいわゆる公然化を通告したところ、学園はこれより先すでにおそくとも同年二月頃までに分会の結成を探知し、理事長夫妻にとつては労働組合の存在すら許しがたいのに、まして横断的な東京私学単一労組と結合した組合である分会を極度に嫌悪し、同年三月二五日同年度のクラス担任の移動に際して分会員を差別待遇し、同年四月一日には、分会結成の中心人物が債権者福永であると考え、「校風に合わない」という理由だけで同人を退職させようと試みた。そして、理事長は前記公然化の通告を受けた際、分会に対し、「分会とは仲良くやつてゆけないかも知れない。」と述べ、四月一二日には、職員室内に理事長名義で、「組合は一切認めません。したがつて団体交渉の必要も認めません」等と記載した模造紙大のビラを貼付し、このため、同年四月二一日から八月三一日までの間一〇回にわたり、一律一〇、〇〇〇円賃上げ、交通費実費支給等の分会交渉要求事項について団交がもたれたが、学園側はなんら処分権限も代表権限もない丹羽校長補佐らを出席させただけであり、団交ルール先議等を口実にして実質的交渉に入らず、その間、四月二一日には同月一二日付で一方的にベース、アツプを行ない、また、後述するように五月二〇日には新組合と賃金値上について妥結する等して、実質団交の拒否、引き延し、骨抜きを一貫して行なつてきた。特に、八月一三日の団交において、初めて学園側団交委員は「学園理事又は理事と同等の権限をもつもののうち理事会の委任した者」と定められたが、当日はすでに第一次処分の通知書が発せられているという卑劣極まりないものであり、また、その後も右協定は一度も守られなかつた。

(2)(イ) 理事長夫妻らは、分会、分会員に対してアカ攻撃を加えて、脱退、加入阻止をはかつたほか、同四一年五月五日志津江の腹心の部下たる黒川利子教諭らをして新組合を結成させ、分会の一〇、〇〇〇円の賃上要求を押えるため新組合と三、〇〇〇円の賃上げで妥結し、新組合は分会に対し、アカ攻撃、デマ等の非難、中傷の限りをつくし、同趣旨の印刷物を全父兄に郵送したりした。また、山尾親師会々長は、学園の意をうけて、全教職員に反共文書を送付して暗に分会とその役員を中傷し、分会員教諭と生徒との離間を策し、学年別父兄会を会長の権限を乱用して秘密裡に開き、その席上分会を口汚く非難し、小島青葉学園協力会々長も、債権者田中、福永、宮島を自宅で供応したうえ、分会脱退をそそのかして、分会役員の切り崩しをはかつたりした。

(ロ) また、学園の会議室その他の施設の使用は、従来届出の有無にかかわらず自由であつたところ、同四一年六月二一日理科実験室を分会集会に無断使用したとして警告を発し、その後は分会が届出をして学園施設を使用したにもかかわらず、「無断」使用の警告書を乱発して処分理由を作ることに狂奔し、八月一三日以降は施設使用時間の制限、九月六日以降は使用場所を指定して、分会の組合活動の締め出しをはかつた。

(3)(イ) 分会は、同年七月一四日新組合員たる吉田教諭が生徒に対し、「七月二六日に債権者福永、松田は解雇され、田中も危い。岡田は異動される。」と洩らしたことを知り、同月一六日新組合員を含めた全教諭と右発言を論議し、ことの真相を明らかにするため広川校長から右件について確認書をとることおよび右件について翌一七日教職員一同の名において臨時親師会総会を招集することを決定した。

(ロ) かような経過から、同月一七日右総会、一九日役員会、二〇日臨時総会が開催され、学園の主張するような内容の事項および「先生二名の解雇および一名の配置転換反対」等の決議がなされたところ、学園、新組合員および親師会々長は、右会合をいずれもボイコツトして欠席したばかりでなく、一九日および二〇日の会合につきこれを開催させまいとして、会場使用禁止措置を試みる等学園および親師会々長は一体となり種々妨害をはかつた。

(4) 分会と生徒、父兄が一体となつた前述したような動きに苦慮した学園は、債権者福永、田中が七月二〇日山田事務員に暴行したとか、同成田が同月一九日生徒に暴行を加えたとかの事実をねつ造して、同月二一日被害者に警察に届け出をさせ、刑事弾圧の威嚇によつて分会を屈服させようとし、新組合もこれに同調した。

そして、更に、大量の懲戒処分により分会の団結を破壊すべく、八月一三日債権者田中ら四名の免職のほか、債権者松田ほか二名の分会員に対し八月分給与一〇分の一の減俸、同大坂、宮島ほか一名の分会員に対し懲戒反省を含む第一次処分を行なつた。なお、この際新組合の幹部五名に対しては、吉田発言に関連して申訳程度の懲戒処分がなされた。

(5)(イ) 学園は、第一次処分後も分会を誹謗、攻撃する同年八月一三日付、一六日付、二三日付文書を父兄あてに発送する等するほか、生徒の自発的な解雇撤回の動きを抑圧しようとし、また、すでに述べたような団交否認の態度を改めず、他方、分会は、勤務時間外に街頭に立ち、学園紛争の真相と解雇撤回の要請を記載したビラを数回配布して、地域住民の支持要請の活動等を、債権者者宮島、松田が中心となつて活溌に行なつた。

(ロ) かような経過のうちに、同年一一月二九日の債権者平部ら四名に対する免職処分がなされたのであるが、その際他の分会員四名も同年一二月分の給与および年末手当各一〇分の一の減俸処分に付せられた。(以下「第二次処分」という。)

(ハ) 学園は、更に、同四二、四三年度のクラス担任外しにつき分会員を差別待遇し、同四三年四月九日分会員一四名を休職処分に付したうえ、五月九日付で右全員を解雇した。

(四)  免職理由に対する反論

債務者主張のビラの掲示、団扇、天井のビラ、リボン等は、いづれも学園の組合否認、団交拒否や新組合幹部の分会攻撃に対する抗議、分会の団結の示威と連帯を表明するものであり、生徒、父兄に対しまた街頭で配布した文書も、学園またこれと一体となつた新組合幹部、親師会々長らの分会攻撃に対する抗議等と、分会と学園間の紛争の経過を明らかにすることを主な内容とするものであり、いづれも正当な組合活動の範囲を逸脱しておらず、七月一九日の親師会役員会、同月二〇日臨時総会の通知と開催、親師会規則改正等の決議は、いずれも父兄達により自主的になされたものであり、債権者田中、福永、岡田らの積極的な働きかけによるものではない。

債務者主張の本件免職理由は、これを要するに、すべて学園における労使間の紛争という流動的な労使の抗争、対抗関係のなかで生じたものであるから、仮りに債務者主張の事実中にこれを認定できる事例があるとしても、これは畢竟、学園側の前述した分会に対する態度に対抗しまたはこれに触発されたものであり、学園の右態度との較量において、いまだ免職理由とするには足りないというべきである。

第三、債務者の主張

一、答弁

申請の理由中、(一)は認める。(二)のうち、債権者松田の給与月額は三七、九八〇円であり、給与支給日は毎月二一日である。

その余の事実は認める。

(三)の保全の必要性は争う。

二、抗弁

学園は、債権者らに次に述べるような懲戒事由に該当する行為があるため、青葉学園教職員服務規程(以下「服務規程」という。)二、三、四三、四四条(後段の「学校の統制上在職を許されないと認められたとき」)の定めに基づき、債権者田中、福永、岡田、成田に対して昭和四一年八月一三日付で、その余の債権者らに対して同年一一月二九日付で、それぞれ懲戒処分として免職する旨の意思表示をしたから、債権者らとの間の雇傭契約は右日時限りで終了した。懲戒事由に該当する事実は次のとおりである。

(一)  債権者田中関係

(1) 多数の東京私学単一労働組合中南支部青葉分会(以下「分会」という。)の分会員とともに、

(イ) 同四一年五月二七日学園が青葉学園教職員組合(以下「新組合」という。)と一時金について妥結したことに関し、職員室において丹羽校長補佐を取り囲んで追求し、約三〇分にわたつてその自由を拘束してばりざんぼうを加え、右校長補佐が退出しようとするや、分会員村上利明をして前方から同補佐をとどめ、その手提鞄を奪つて同人の退出を妨げた。

(ロ) 同年六月中旬頃職員室の壁面に理事者の名誉を毀損または侮辱する文言を記載した新聞紙三枚大の文書を掲示し、分会員たる教員の机上に分会の要求項目その他理事長を誹謗した文言を記載した団扇を立てかけ、学園の再三の注意を無視してこれを続け、一時は撤去したものの、六月三〇日から同様の団扇をたてかけ、また職員室天井に理事者および一部教員を誹謗したビラ多数を紐につけて張りめぐらし、再三にわたる撤去申入を無視した。

(ハ) 同年六月下旬頃から分会員たる教員の胸に「団結、生徒と学園を守ろう」「先生と生徒の心のつながりを強めましよう」などの文言を記入したリボンを吊し、生徒に奇異の感を与えるとともに、リボンを着けた先生は良い先生で、着けない先生は悪い先生である旨生徒に宣伝した。

(ニ) 同年六月一七日、理事者および一部教員を誹謗した分会文書を生徒および父兄あて各一部作成し、これを無断で生徒に配布した。

(ホ) 同年七月一四日親師会(P・T・A・)会長を誹謗した分会文書を生徒を通じて全父兄に無断で配布し、七月二五日学園並びに新組合を誹謗した分会文書二通を生徒および父兄あて各一部づつ無断郵送した。

(ヘ) 同年五月五日宿直中の分会員斎藤育三をして学園業務以外の業務のため電話を無断使用させたほか、学園からの無断使用を禁ずる旨の警告を受けながら、六月二一日理科実験室、七月四日体育準備室、同月八日図書室、同月一三日会議室、同月二四日会議室、同月二五日化学教室、同月二六日洋食作法室、同月二七日会議室、同月二九日から連日職員室、会議室をそれぞれ無断使用した。

(ト) 同年七月一六日、教諭吉田公子が同月一四日校内LL教室において生徒数名に対して行なつた言説を故意に誇張して取り上げ、特定の教諭ら三名が七月二六日解雇または配置転換されるべく予定されている旨虚偽の宣伝を行ない、これを生徒、父兄にも流布した。

(2) 債権者岡田と意を通じて、

(チ) 同年七月一六日青葉学園教職員一同名義を冒用して、前記(ト)記載の虚偽の事実を記載し、これを解決するための緊急総会を開くから出席されたい旨の文書を作成し、校長に無断で生徒を通じて父兄に配布した。

(リ) 同年七月一七日午後一時頃、前記(チ)記載の文書により参集した父兄に対し、無断父兄を講堂に集めたうえ学園が三教諭に対して不当な解雇または配置換えをする旨の虚偽の事実を告げて、父兄に不安感を与えた。

(ヌ) 前同日親師会副会長の名義を冒用して、同会役員会を同月一九日午前一〇時から学園作法室で開催する旨親師会役員に通知を発し、一九日親師会々長の招集すべき役員会を無断開催したうえ、一部の参集した役員と親師会の臨時総会を開催することを決議し、前同様副会長の名義を冒用して右総会を同月二〇日午後一時から学園講堂で開催する旨親師会々員に通知を発し、同日前同様親師会々長の招集すべき臨時総会を無断開催し、一部参集した会員による右集会をして親師会々長および副会長の不信任決議と親師会々則三、一三、一四、一五条の改正を行なわせた。

(3)

(ル) 同年七月一六日午前八時二〇分頃、丹羽校長補佐がテレビ朝礼の放送のため、全教員に各学級担任の教室に行くよう指示して放送室に赴くや、これに追尾して放送室前に至り、同補佐の右肘を把えて職員室に帰るよう強要するとともに、放送部生徒に対して電源を切れと叫び、恐怖にかられた生徒が電源を切つたため、テレビ朝礼放送を行なうことができなかつた。

(オ) 前同日午後三時三〇分頃職員室において山尾親師会々長に対し、多数の教員および生徒数名の面前で、暴言を吐いたうえ手拳で殴りかかろうとして他の教員に制止された。

(ワ) 同月二〇日午前一二時三〇分頃前記(ヌ)記載の臨時総会名義の集会につき、学園が山田事務員をして「使用禁止」の貼紙を講堂入口に貼付させたところ、多数生徒の面前でこれを破棄し、制止しようとした同事務員の胸倉をとらえて暴行し、更に守衛、事務員等が制止するにもかかわらず、閉鎖していた幼稚園正門の扉を多数生徒の面前で無理にこじあけて門扉の旋錠を破損した。

(二)  債権者福永関係

前記(一)(1)の(イ)ないし(ト)、(2)の(チ)ないし(ヌ)の行為および(3)の(ワ)のうち幼稚園関係を除く行為を行なつた。

(三)  債権者岡田関係

前記(一)の(1)の(ト)、(2)の(チ)ないし(ヌ)の行為をしたほか、

(イ) 同年七月二〇日全生徒の朝礼の際、丹羽校長補佐が全生徒に対して「本日午後の親師会臨時総会は学園も親師会々長も関知しないもので、総会は開かれない。」旨告げたところ、直ちに朝礼壇上に起ち上り、「今、丹羽先生が総会は開かないと言つたが、本日午後開かれる。昨一九日招集通知を生徒を通じて配布したが、丹羽先生が早く下校させたため生徒に渡せなかつた組があり、その生徒の父兄には配布していないが、本日午後総会は行なわれる。」と宣言して、生徒を混乱におとしいれた。

(ロ) 同年七月一六日、前記吉田発言を誇張宣伝した分会文書が職員室内に配布された際、丹羽校長補佐が右文書の内容は事実無根であるから当日の予定行事である全生徒に対する朝礼に参加するよう指示したにもかかわらず、「丹羽先生の事実無根の言葉を自分は信じない。」、「理事長の確認書で明示される必要がある。」と全教員に告げ、確認書を見るまでは就業を拒否すると称して他の教員を煽動して就業を拒否し、丹羽校長補佐の指示に従わず、他の教員とともに朝礼その他学園の正常な業務の運営を阻害した。

(ハ) 同年七月一八日、職員朝礼のため全教員の集合している職員室において、朝礼終了後の午前八時二〇分頃なんら理由もないのに、「今日限り丹羽校長補佐の指示には絶対従わない」と宣言した。

(四)  債権者成田関係

同年七月一九日午前一〇時五分頃東急電車玉川線世田谷駅上り線フオームにおいて、下校途上にある学園高校一年生白戸道子および同高梨三枝子に対して、何ら理由もないのに帰校を命じ、両名がその理由が分らないためためらつているのを見るや、公衆の面前で矢庭に大声で怒鳴りつけ、高梨の前額部をこづき、白戸の頭部を手拳で殴打した。

債権者の右行為は、刑法犯に該当するとともに教育者としてあるまじき行為であり、学園の名誉、信用を著しく傷つけるものであるが、同人は被害者の父兄に謝罪しないばかりでなく、右事実すら否認した。

(五)  債権者平部関係

(イ) 同年九月五日付、同月二九日付および同年一〇月一二日付各文書で学校長から顛末書の提出を要求されながら、これを拒否した。

(ロ) 同年九月九日、一三日および二二日に学園構内において、学園に無断で生徒多数に対して教育に関係のない文書を配布した。

(ハ) 同年一〇月上旬以来学園に無断で教員たる地位を利用して生徒多数から新聞紙を多量に収集した。

(ニ) 他の十数名の教員らとともに、同年一〇月二〇日東急電鉄玉川線三軒茶屋駅附近街頭において、学園に関する虚偽の事実を記載し校長、副校長を誹謗する文書を、同年一一月一六日国鉄渋谷駅西口バス発着所附近街頭において、学園に関する虚偽の事実を記載した文書を、いづれも多数の者に配布した。

(ホ) 同年一〇月一一日生徒が学園の許可なく早退するのを校長の命により他の教員が阻止していた際、これを妨害し、あまつさえ生徒を煽動して集団早退を行なわせた。

(六)  債権者松田関係

債権者平部の前記(ニ)に記載した行為を行なつたほか、

(イ) 同年九月五日付、同月二九日付および同年一〇月一二日付各文書で学校長から顛末書の提出を要求されながら、これを拒否した。

(ロ) 同年九月一〇日学園構内において、学園に無断で生徒多数に対して教育に関係のない文書を配布した。

(ハ) 同年一〇月一一日午前高校二年五組の化学の時間に担任教師として授業を行なつた際、生徒約四十数名に対して当日午後東京地方裁判所で行なわれる裁判を傍聴するため午後から早退して裁判所に赴くことをすすめ、学園で禁止したにもかかわらず、多数の生徒をして授業を放棄して集団早退をさせた。

(七)  債権者大坂関係

債権者平部の前記(ニ)に記載した行為および債権者松田の前記(ロ)に記載した行為を行なつたほか、

(イ) 同年九月四日付、同月二九日付および同年一〇月一二日付各文書で学校長から顛末書の提出を要求されながら、これを拒否した。

(ロ) 同年一〇月上旬以来学園に無断で学園に出入する商人らに対し、教員たる地位を利用して「青葉学園の先生を守る会」への寄附金を強要した。

(ハ) 同年一一月五日、六日の両日開かれた学園祭におけるクラス展示会の余剰金を「青葉学園の先生を守る会」に寄附するよう、教員たる地位を利用して中学生徒らに強要した。

(ニ) 上司に対して反抗的であり、校長告示の文書を配布者の面前で破棄するなど粗野の言動があり、副校長、校長補佐らが度々注意したが改めなかつた。

(八)  債権者宮島関係

債権者平部の前記(ニ)に記載した行為のうち、一〇月二〇日の文書配布につきこれが配布責任者として配布したほか、

(イ) 同年九月一三日、二二日、同年一〇月二七日および同年一一月二五日に学園構内において、学園に無断で生徒多数に対して教育に関係のない文書を配布した。

なお、情状として、債権者松田、大坂、宮島は、いずれも同年八月一三日学園から懲戒処分に付せられている。

三、再抗弁に対する答弁と反論

(一)  再抗弁中

(一)は争う。

(二)の(1)のうち、学園が債権者ら主張の経歴、肩書等をもつ広川夫妻を含む理事によつて運営されてきたことは認めるが、その余は否認する。学園は七名の理事(弘禅死亡後は六名)よりなる理事会で運営されており、教職員による選挙運動の応援がなされたことはあるが、これは自発的になされたもので、授業に支障は全くなかつた。

(二)の(2)のうち、岡田を除くその余の債権者らが分会員であり、田中、福永、松田、宮島がそれぞれその主張するような分会役員であつたこと、岡田が教務筆頭の地位にあつたことは認めるが、その余は不知。

(三)の(1)のうち、分会が昭和四一年四月六日学園に対してその存在を通告したこと。三月二五日クラス担任異動の人事異動があり、四月一日に債権者福永に対し辞職の勧告がなされたこと。債権者ら主張の要求項目につき、その主張する期間および回数の団交がもたれ、これに学園側として丹羽校長補佐らが出席したこと。四月二一日にベース・アツプを実施し、新組合員と賃上げについて妥結したこと(但し、日時は五月二五日)。八月一三日の団交において債権者ら主張の条項を含む団交ルールの協定がなされたこと。以上の事実は認めるが、その余は否認する。学園では、昭和四一年度は生徒数の減少に伴い高校の学級数一〇を減少することとし、このため「担任外し」を行なわざるをえず、新編成後担任をもたなくなつた教諭の総人員に対する比率は、分会員については一一、九パーセント、新組合員については一五、八パーセントであるから、分会員教諭に対する差別待遇とはいえない。債権者福永は欠勤が多く勤務成績も不良であり、前述したように生徒数の減少による教諭の余剰が生じたため、辞職を勧告したまでのものである。況んや、学園は四月六日の通告により初めて分会の存在を知つたのであるから「担任外し」および「辞職勧告」を分会に対する攻撃と受けとめることは、債権者らの思い過しも甚だしい。次に、八月一三日までの団交において協定が六回成立していることからみても、学園が誠実に団交に応じていることは明らかであり、学園側出席者はいずれも学園の委任を受けていた。

(三)の(2)の(イ)のうち、五月五日新組合が結成され、学園がこれと三、〇〇〇円の賃上げで妥結したことは認めるが、その余はすべて争う。同(ロ)のうち、学園施設を無断で使用したことに対して警告書をもつて注意を与えたことは認めるが、その余は争う。学園施設を学園の日常教育上使用する場合、届出をすることなく自由に使用に供していたことは、債権者らの主張どおりであるが、教育上の目的でも通例のものでない場合または教育上以外の用件で使用するときは、必らず事前の届出に許可を与えて使用させるのが慣行であつた。

(三)の(3)の(イ)のうち、吉田教諭が生徒に発言したことは認めるが、その余は争う。同(ロ)のうち、七月一七日三〇〇人弱の父兄が学園に参集し、同月一九日親師会役員会と称する会合、同月二〇日親師会臨時総会と称する会合がそれぞれ開かれ、同月二〇日学園講堂の使用禁止をはかつたことは認めるが、その余は争う。吉田教諭の発言内容は、分会員らの四月以降の学園秩序をみだした事実につき、他の学校での事例等からみて、その責任の追求は当然なされると思われ、債権者福永あたりが問題とされるだろうが、若しそのような事態が生じても、生徒は静観して欲しいという趣旨であり、学園は直ちに丹羽校長補佐をして右発言から窺われるような方針をもつていない旨明らかにしたにもかかわらず、分会は吉田発言を故意に誇張宣伝してその主張する会合を開くなどして、生徒、父兄に不安混乱を生じさせた。そして、前記二〇日主催者不明の会合が講堂を使用して開かれようとしたため、これが使用を禁止しようとしたのである。

(三)の(4)のうち、債権者ら主張の内容の第一次処分がなされたことは認めるが、その余は争う。債権者田中、福永、成田に暴行の事実があつたことは前述したとおりである。

(三)の(5)の(イ)のうち、学園が債権者ら主張の日付の文書を父兄あてに発送したこと、分会員が街頭でビラを配布したことは認めるが、その余は争う。右文書は外部からの煽動による生徒の心情の動搖を防ぐため、父兄あてに事実を通知したものにすぎない。同(ロ)の事実は認める。同(ハ)の事実のうち、同四二、四三年度のクラス担任外しにつき分会員を差別待遇したことは否認し、その余は認める。

(二)  以上これを要するに、学園は、自らまた親師会、新組合の幹部と一体となつて分会に対し組合否認の態度を取つたことはなく、債権者らの主張は、労使間の問題を父兄、保護者の念願に反して教育の場に持ち込み、生徒の心情に刺戟的な動揺を与え、生徒らに教育に対する不信不安をかもし出し、学園の教育機能全般に深刻な打撃を加えた自らの言動を覆いかくし、その責任を学園および他に転嫁しようとするにほかならないというべきである。

第四、疎明関係〈省略〉

理由

一、申請の理由第一項記載の事実、債権者田中、福永、岡田、成田が昭和四一年八月一三日付で、その余の債権者らが同年一一月二九日付でいづれも債務者主張のような理由のもとに学園から懲戒処分として免職する旨の意思表示を受けたことは当事者間に争いがなく、学園の服務規程に懲戒免職等の基準として、「二条。教職員は公務員に準じ、上司の指示命令に従う義務、職務上の秘密を守る義務、職務に専念する義務があり、政治的行為の制限、信用失墜行為の禁止、許可得ずして行う他の事業事務の関与に対する制限がある。」、「三条。教職員は生徒の指導者たる責任を自覚し、本学園の身心学道の教育方針を体し、相互の信頼と人格の向上とを図り、校風を培う。」、「四三条。教職員業務上の義務に違反したとき又は道義紊乱の行為、国法に背反した行為のあつたときは、学校長の申請に基づき、理事長より制裁を受く。」、「四四条。制裁は教戒と減俸と免職の三種とする。教戒は本人へ反省をうながし又は一般に戒告を与えんとするとき之を行う。減俸は教戒を実行せざるとき之を行う。免職は本人改善の見込なしと認められたとき、又は学校の統制上在職を許されないと認められたとき之を行う。」と定められていることは、成立に争いのない疎乙第三号証から一応認定することができる。

ところで、債権者らは、本件懲戒免職の意思表示は、いずれも労組法七条一号の不当労働行為若しくは懲戒権の乱用により無効である旨争つているから、以下これが効力について検討をする。

二、まず、第二次処分に至るまでの分会と学園間の労使の対立の紛争の経過について検討する。

(分会結成から第一次処分まで)

(一)  当事者間に争いのない事実、成立に争いのない疎甲第三五号証の一ないし四、六、八、第七五、第七六号証、疎乙第一五一号証、債権者岡田尋問の結果とこれにより成立の一応認められる疎甲第八九号証、証人丹羽琢也の証言、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が疎明される。

学園は、元自由党代議士で農林大臣などの経歴を有する広川弘禅が理事長兼校長であり、同人の妻で自民党都会議員の肩書をもつ広川志津江が理事兼副校長であつたところ(但し、弘禅は同四二年一月七日死亡し、志津江が理事長となる)、発足当初以来弘禅校長のいわゆるワンマン経営であつたため、学園における同人の独裁ぶり、教育方針とその内容、労働条件等についてかねて不満を抱いていた高校教諭中債権者田中、福永、松田、宮島らは、同四〇年九月三〇日個人加盟の東京私学単一労働組合に加入するとともに分会を結成し、学園内における組織の拡大につとめ、分会員数は同四一年三月末頃には専任教諭中約三八人に達した。そして、債権者田中は分会長、同福永、同松田は副分会長、同宮島は教宣部長次いで第一次処分後は分会長の役職にあり、その余の債権者らは平組合員として分会活動を行ない、債権者らのうち岡田は、校長補佐に次ぐ教務筆頭の地位にあつたが、同四一年七月二一日頃分会に加入した。

ところで、学園では、四一年度高校生徒数の減少に伴う学級数の削減の結果、同年三月下旬学級担任教諭の異動を行なつたところ、可成りの分会員たる教諭が従来の学級担任から外され、また、同年四月一日(以下年度の記載がない場合は昭和四一年である。)債権者福永に対し、校風に合わないことを理由に退職勧告がなされたところ、分会は、これら一連の動きは、分会結成を探知した学園側の分会に対する先制攻撃にほかならないと判断し、同月六日学園に対してその存在を通告し、学園内において公然たる活動を開始した。

(二)(1)  前掲疎甲第七六号証、成立に争いのない疎甲第三五号証の一八、一九、第五〇、第八三、第八四号証によると、次の事実が疎明される。

学園は、分会の公然化に対し、右通告当日志津江副校長が教諭に分会加入の有無を確かめ、四月一三日職員室に「この度一部の先生方の中で労働組合結成の動きがありますが、学園としては組合は一切認めません。従って団体交渉の必要も認めません。待遇改善とかその他のことについては、学園独自の立場で実施いたしますので、心配なさらぬよう願います。」旨の組合否認、団交拒否を明言する弘禅校長名義の文書を掲示したほか、校長は四月八日分会員たる五十嵐教諭に対し、「お前もアカだつたか。しかも幹部だからこれから新らしい職場に移るのはむつかしいぞ」と告げたりした。

(2)  当事者間に争いのない事実、前掲疎甲第三五号証の四、第七五号証、成立に争いのない疎甲第一六号証の一、二、第一七ないし第二一号証、第二三号証の一、二、第三五号証の九、一一、第三八号証、第六四号証の一、二、第七八、第七九、第八一、第八二号証、疎乙第一五二、第一五八、第一五九号証、弁論の全趣旨から成立の一応認められる疎甲第二四号証、第二五号証の一ないし四、債権者岡田尋問の結果を総合すると、次の事実が疎明される。

学園では、志津江副校長とかねてから親交のある黒川教諭らを中心とする、債権者福永は共産党員で、私学単一労組は同党の指導下にある御用組合であると考えていた教諭の一部および事務職員による新組合が五月五日結成され、これが組合員数は三十五、六名に達したところ、結成当初以来一貰して、「分会は共産党の組織拡大の方便として作られた御用組合であり、極左思想の一部急進分子がその点の意図を隠して結成したものである。」「私教単一労組の幹部は共産党員である。」と分会に対し激しいアカ攻撃を加え、「分会のような暴力団的斗争では駄目だ。」「クレージー失言集団だ。」と口汚く罵つたほか、分会員に対し、共産党発行の冊子を示したりして、分会脱退・新組合加入をすすめたりした。また、父兄に対しても、七月二〇日付で「分会幹部は党員であり、共産主義思想を生徒に鼓吹し、生徒を手なづけて父兄を斗争にまきこみ、親師会(後記参照)の乗つ取りをたくらんでいる」旨の文書を三、〇〇〇部郵送したりした。そして、分会と学園間の団交内容、また、分会員と校長補佐との話合の内容が、翌日の新組合機関紙にすぐさま掲載されたこともあり、また、志津江副校長は、債権者岡田に対し、五、六月頃中立の教諭五、六人の新組合加入の勧誘を要請し、新組合幹部は、新組合結成直前頃弘禅校長宅で大隅教諭に対し、「よい組合を作るので校長は感激している。したがつて身分保障もある。」等と告げたりした。

(3)  当事者間に争いのない事実、前掲疎甲第七六、疎乙第一五二号証、成立に争いのない疎甲第三二号証の一ないし三、疎乙第四号証の一、第一六〇号証、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が疎明される。

学園にはPTAに相当するものとして親師会の組織があつたところ、同会の山尾会長は、分会の学園との対立・抗争を苦々しく思う反面、新組合に好感を抱き、六月一〇日全教職員あてに「内外だより」という反共文書を会長名義で郵送し、七月上旬頃異例にも学園外で親師会の会合を教師を交えずに開き、また、その頃、斗争をしている教諭には同会負担の研究費は支給しないと言明したりした。

(三)  当事者間に争いのない事実、前掲疎甲第三五号証の一、第七六号証、疎乙第一五一、第一五二号証、成立に争いのない疎甲第三四号証の一ないし六六、七五、第六四号証の三、第六五号証の一、二、第六六号証の四ないし六、第七七号証、疎乙第八ないし第一三号証、第一〇四、第一二三、第一二六、第一五四号証、丹羽証言、証人山田幸一の証言を総合すると、次の事実が疎明される。

分会は、公然化した四月六日以降、交通費実費全額支給、生理休暇月二回、四一年四月から一律一〇、〇〇〇円の賃上げ、さらに、夏期手当として基本給二・五月分プラス二〇、〇〇〇円、有給休暇年二〇日等の要求項目につき、学園に対し繰り返し団交の申入を行なつた。

これに対し、学園は、四月二一日から八月一三日までの間九回にわたり分会との団交に応じたものの、理事長は四月下旬以来病臥中であつたにしろ、その余の理事も一回も出席することなく、終始丹羽校長補佐、大塚事務次席、山田庶務係(同人は当時三二才位)の三名を出席させ、同人らはいづれも形式的には学園を代表していたものの、交渉項目については、生理休暇の問題ですら理事長と相談しない限り交渉の場で決められないというような、実質的な交渉権限は皆無に近い状態であつた。しかも、交渉人員等いわゆる団交ルールについて、四月二一日双方の合意が一旦成立して確認書が取り交わされたにもかかわらず、分会が「交渉人員について双方自主的に誠意をもつて決定する」旨の条項に誠意がなく、多くの人員を交渉に参加させた等の理由から、団交ルール設定の先議を主張して実質的内容の交渉に入ることをしぶり、特に六月一日以降は、右先議を固執して七月中旬団交が再開されるまでの間、分会の再三の申入に一度も応ぜず、八月一三日の第一次処分の当日に漸く団交ルールの協議がまとまる状況であつた。以上の経過からして、この間双方の交渉だけで解決できたものは、生理休暇の取扱に関してだけであつた。

学園は、分会の要求に対してはかような態度を取る一方、四月一二日異例の一方的ベースアツプを行なう旨教職員あてに通知して、同月二一日一〇パーセントのベースアツプ等を実施し、五月二〇日新組合と一時金三〇〇〇円支給で妥結し、同月二六日新組合との右協定内容を掲載した文書を教職員に配布し、次いで、七月、夏期手当につき一・六月分プラス五、〇〇〇円で新組合と妥結し、右各妥結を理由として、分会に対しても同一内容で妥結するよう求め、分会も結局はこれをのまざるをえなかつた。

そして、学園と新組合間の右各妥結について、果してどの程度の団交が行なわれたものか、成立に争いのない疎乙第一五八号証によると、新組合の中心人物ともいうべき黒川教諭すら右団交の模様をよく記憶していない旨述べているところからみて、疑問がなくはない。

本件における全疎明資料中以上(一)ないし(三)の認定に反するものは採用しない。

(四)  以上の認定を総合すると、学園、新組合および山尾親師会々長は、いずれも分会が私教単一労組の傘下にあるため、共産党の支配下にあるものとみなして、これに対し著しい反感と敵意を抱き、新組合は学園の意を体して分会に対し激しいアカ攻撃を加え、学園は、自らまた新組合との妥結により、賃上げ等して分会の要求を先取りして団交の無意味化をはかるほか、団交の引き延しを行ない、かような学園の組合否認、団交拒否の態度は、前述した四月一三日付弘禅校長名義の文書の線に沿つて一貫していたものというべく、新組合はもつぱら学園の意を体した反組合的御用団体であるといつても過言ではなかろう。

(五)  ところが、後述するように、七月一四日なされた新組合員たる吉田教諭の発言を契機として、分会と学園の対立が激化し、親師会がこれにまきこまれる事態が発生し、第一次処分へと事態は悪化した。

(第一次処分から第二次処分まで)

当事者間に争いのない事実、前掲疎甲第七六ないし第七八号証、疎乙第一五二号証、成立に争いのない疎甲第六、第七、第一四号証、第三五号証の一七および二三、第八六号証、疎乙第一七五ないし第一七七号証、第二〇八号証、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が疎明され、これを左右すべき資料はない。

学園は、第一次処分直後から父兄に対して、文書で処分の正当性と学園の立場等を明らかにし、分会もこれに対抗して、処分の不当と解雇反対を訴える文書を生徒、父兄、さらに一般市民に配布する等し、第一次処分後の分会活動は、解雇反対の情宣活動を中心としてなされたところ、新組合は第一次処分後は目立つた動きを殆んどせず、分会と学園間の団交は、前記八月一三日の団交ルール決定後も、学園側の代表者の顔触れに変更はなく、一一月頃からは丹羽校長補佐も出席しなくなり、交渉内容についてもなんらの進展を見なかつた。ところで、前記吉田発言を契機として、高校生徒間に分会と学園の対立、教諭の解雇問題につき関心が著しくたかまり、特に第一次処分後は、解雇問題につき分会の主張に同調して、学園の内外において学園を非難・攻撃し、債権者田中ら第一次被免職者の復帰を訴える行動に出る生徒も少くなく、折柄当裁判所に係属していた学園から右四名に対する雇傭契約不存在確認訴訟の成行きに関心を抱く者も多かつた。

三、以上の分会と学園間の対立、紛争の経過を前提として、以下債務者主張の懲戒免職事由につき、これが事実の存否と右事由に該当の有無等について検討する。

(五月二七日の丹羽校長補佐に対する件)……債権者田中、福永関係

(1)  前掲疎甲第八六号証、疎乙第一二五、第一五一、第一五二号証、成立に争いのない疎甲第六四号証の三、疎乙第九〇、第九二号証、第一〇八号証の一と前記認定事実を総合すると、次の事実が疎明され、これに反する資料は採用しない。

学園は、分会の一律一〇、〇〇〇円の賃上げ要求に関する団交の実質的討議に入ることをしぶつたものの、五月二〇日、新組合と春季賃上げについて一時金三、〇〇〇円で妥結し、二六日右妥結内容とこれに賛同する者には右一時金を支給する旨を教職員あて文書で公表し、新組合も同時に右妥結内容を発表したため、分会は、二六日の団交の際および二七日朝、丹羽校長補佐に対し、右妥結は不当であり、しかも文書の内容は分会に対する差別待遇であるとして追求したが、同人から「賛同すれば支給するのだから差別ではない」旨の答弁しか得られないため、同日午後債権者田中、福永らは、多数の分会員と共に職員室で丹羽に対し、重ねて追求を始めた。しかし、丹羽は前記と同趣旨の返答を繰り返すだけであつたため、「なんでも校長の言うなりになつているロボツトだ」、「校長補佐をやめろ、」、「差別待遇を意味している書面であることが分らなくて国語の教師が勤まるか」等と罵り、丹羽が話し合いが一向に進展しないため約三〇分後に退席しようとするや、同席していた分会員村上において、丹羽の手提鞄を奪つてその退出を阻もうとした。

(2)  以上によると、債権者田中、福永ら分会員の言動は、若干粗野の嫌いがあり、これが就業規則三条に触れると解する余地があるとしても、学園が、分会と賃上げについて実質交渉にも入らない反面、新組合とこれについて妥結し、しかも妥結内容を分会に通知することなく、教職員あて文書で一般に、かつ、新組合の発表と同時に公表したことは、学園の分会に対する挑発と解せられる余地が多分にあるから、かような当時の状況下においては、本件はなお許容されるべき組合活動の範囲に属するといえる。

(名誉毀損文書、団扇、多数のビラ等の件)……債権者田中、福永関係

(1)  債務者主張の事実は、文書の内容が誹謗にわたる点および団扇立てかけ等の再開が六月三〇日である点を除いて当事者間に争いがなく(ただし、新聞紙三枚大の文書掲示については、弁論の全趣旨から債権者らにおいて明らかに争わないものと認める。)、成立に争いのない疎乙第八六号証の二ないし五、第一五三号証、弁論の全趣旨から成立の一応認められる疎乙第八六号証の一(ただし、「以上」の次の「一、校長くたばれ」を除く。)によると、新聞紙三枚大の文書および天井に吊したビラの内容に、弘禅校長および新組合の幹部一、二教諭に対する(特に校長に対する)可成り悪どい非難・攻撃の文言が散見されることは否定できず、成立に争いのない疎甲第六七号証の四によると、前記再開は七月七日であることが疎明されるところ、前掲疎甲第三四号証の四一、第六七号証の四、第七八、第八二、第八六号証、疎乙第一五二号証、成立に争いのない疎甲第六七号証の一、疎乙第二三、第二五、第一六〇、第一八〇号証と前記認定事実によると、分会のこれら戦術は、分会結成当初以来組合否認、新組合を通じてのアカ攻撃等露骨な反組合的態度を一貫する学園が、六月当初以降は度重なる分会の団交要求を拒否し続けて一度もこれに応じないため、これが交渉再開のための圧力を加える以外のなにものでもなかつたことが疎明され、債務者主張の団扇に記載された誹謗の文言については疎明がない。

(2)  およそ、学園施設は、本来平穏中正であるべき教育の場であるから、理性、感情ともいまだ不安定期を脱しない女子高校生の眼に触れ易い職員室に、前述したようなビラ吊り等をすることは、生徒の心情に刺戟的な動揺を与え、いたづらに学園、また、教育に対する不信、不安の気持を起させ、学園の教育機能を著しく阻害するというべきであるが、分会においてかような行動に出ざるをえなかつたのは、畢竟、学園側の頑固な団交拒否の態度に起因している以上、かような当時の状況下においては、本件文書の掲示等は就業規則二、三、四条に触れるとしても、いまだ組合活動として許容されるべき範囲をこえていないといえる。

(リボン戦術の件)……債権者田中、福永関係

債権者田中、福永を含む分会員が、債務者主張のように学園内でいわゆるリボン戦術を行なつたことは当事者間に争いがないが、その主張の文言を記載したリボンを吊したことが、直ちに債務者の主張するように、これが着用の有無により生徒に対し教師の良否を判別させるべく宣伝したといいえるかどうか疑問である。しかし、リボン着用が生徒の心情に刺戟的な動揺を与える等することは前述したビラ吊り等の場合と異るところはなく、特に学園との紛争を授業の場にまで持ち込むことは、教員の組合として厳に戒むべきであるから、本件は就業規則三、四条に触れるとともに違法な組合活動というべきである。

(六月一七日文書配布の件)……債権者田中、福永関係

(1)  債務者主張の事実は、文書の内容が誹謗にわたる点を除いて当事者間に争がないところ、前掲疎乙第一五八、第一五九号証、成立に争いのない疎乙第二四号証の一、二によると、学園では文書配布について事前に許可を要する旨の定めはなく、右文書の内容は、父兄あてのものは、分会結成の知らせと学園理事者の分会への攻撃に対する非難であり、生徒あてのものは、生徒会の予算に関する問題が主として取り上げられているところ、これに関連して、一、二の教諭の行動に言及してこれを非難していることが疎明される。

(2)  右認定によると、父兄あての文書活動が組合活動として許容されるべき範囲をこえているとはいえないとしても、分会が生徒に対し組合活動として直接これに呼び掛けることは、極力避けるべきであるから相当でなく、しかも一、二の教諭に非難すべき行動が仮りにあつたとしても、かような事柄を直接生徒に知らせることは、組合活動としても行き過ぎのそしりを免れず、この点において、本件は就業規則三、四条に触れるとともに違法な組合活動といえる。

(七月一四日、二五日文書配布の件)……債権者田中、福永関係

(1)  債務者主張の事実は、文書の内容が誹謗にわたる点を除いて当事者間に争いがないところ、前記認定事実と成立に争いのない疎乙第三六ないし第三八号証によると、右文書の内容は、七月一四日関係のものは、山尾会長の前述した分会に対する言動に基づく同人に対する非難であり、七月二五日関係のものは、父兄、生徒あての両者を通じて、前述した新組合の父兄あて七月二〇日付分会に対する非難・中傷の文書に対抗して、これに反論を加えることを主な内容とするものであり、新組合の文書と比較しても、その文言が特に過激にわたるものでないことが疎明される。

(2)  右認定によると、父兄あての文書は、いまだ許容されるべき組合活動の枠をこえていないということができ、生徒あてにかような文書を発送することが相当でないことは、前述したとおりであるが、さきに述べたように、当時生徒間に吉田発言を契機とする学園内の紛争についての関心が著しく高まつていたことをも合わせ考えると、本件行為は、一応は就業規則三、四条に触れるとしても、これを違法視するに足りない。

(電話、学園施設の無断使用の件)……債権者田中、福永関係

(1)  当事者間に争いのない事実、前掲疎甲第三五号証の二一、第七六、第八六号証、疎乙第一五三、第一五四号証、成立に争いのない疎甲第八五、第八七、第八八号証、疎乙第二六ないし第二八号証、第四〇ないし第四二号証、第一三七号証の六、七、第一五五、第一五九号証、弁論の全趣旨から成立の一応認められる疎乙第八七号証、丹羽証言を総合すると、債務者主張の事実は、電話利用以外の施設利用が、すべて学園の許可なくなされた点を除いて、すべて疎明されるところ、前掲疎明資料によると、電話利用は、新組合員に対して不当介入に抗議する電報を打つべく、債権者田中が分会書記長斎藤に命じたものであるところ、これが使用料は仮りに支払われていないとしても、たかだか三九〇円にすぎないこと。学園では教諭による学園業務以外のための施設利用は、従来野放しに近い状況にあつたところ、丹羽校長補佐は六月以降事前に許可を要する旨を明らかにしたが、このことは大塚事務次席にすら十分徹底しておらず、また、本件施設利用のなかには、事前に承認を得た事例もあることが疎明され、本件全疎明資料を検討しても、分会が教室等の施設を利用したことにより、学園の運営、教育等の業務遂行に支障を来したことを推認することはできない。

(2)  右認定によると、本件行為のなかには、就業規則二、四条に触れるところがあることは否定できないとしても、これが違法の程度は必ずしも著しいとはいえない。

(吉田発言問題)

債務者主張の(一)の(ト)、(2)の(チ)ないし(ヌ)、(3)の(ル)ないし(ワ)、(三)の(イ)ないし(ハ)についての判断に入るに先立ち、これら主張事実の契機となつた新組合員たる吉田教諭の発言とこれをめぐる動きについて検討する。

前掲疎甲第三五号証の二三、第八六号証、疎乙第一五一号証、成立に争いのない疎甲第五八号証、疎乙第一五号証の一部、弁論の全趣旨から成立の一応認められる疎甲第三三号証、債権者岡田尋問の結果、弁論の全趣旨と前記認定事実を総合すると、次の事実が疎明され、前掲疎乙第一五号証中これに反する部分は採用できず、他に左右すべき疎明資料はない。

吉田教諭は、七月一四日校内LL教室において生徒数名に対して、債権者福永、松田が近く解雇され、同岡田も配転される趣旨に受け取られるおそれのある発言をしたところ、これが直ちに生徒間、また、分会の耳に入り、生徒らは一五、一六日および一八日に生徒集会を開いて騒ぎ立て、分会も学園および新組合の従来の態度からみて、右発言は単に一教諭の無責任な言葉でなく、学園の意図を表明するものにほかならないと受け取り、一六日以降丹羽校長補佐に対しこれが真偽を追求したが、同人は、「そういう事実はない。おそらく校長もそんなことは考えていないし、わたくしも聞いていないから、吉田さんの個人的な臆測であろう。」旨答弁するにとどまり、一八日朝礼時生徒会代表に校長の言として伝えたところも、「現在の段階では先生方の解雇については校長先生はなにもおつしやつていない」程度のものであつた。分会は、丹羽校長補佐のかような態度に納得することができず、解雇は間近いと考え、このうえは、学園と密着した山尾会長を除く親師会々員と親師会を開いたうえ、同会とともに学園側の解雇の意図を未然に潰そうと考えるに至つた。

(七月一六日虚偽宣伝の件)……債権者田中、福永、岡田関係

債権者田中、福永らが、分会として七月一六日吉田発言を取り上げ、同岡田がこれに同調して、右発言の内容を生徒、父兄にも流布させたことは、成立に争いのない疎乙第一六号証と弁論の全趣旨から疎明されるところ、分会等において同発言を学園側の解雇の意図を示すものと受け取つたことに無理からぬ点が可成りあつたことはすでに述べたところから明らかであり、同発言が一五日中に生徒の耳に入り、生徒がこれにつき集会を開いたりしたことは前述したところであるから、かように生徒がすでに承知している以上、右発言を生徒に流布させた点を特にとがめ立てるわけにもゆかず、そうだとすると、本件はいまだ許容されるべき組合活動の枠をこえていないということができ、債権者岡田も右活動に同調したにすぎないから、違法ということはできない。

(七月一七日、一九日、二〇日の親師会開催の件)……債権者田中、福永、岡田関係

(1)  当事者間に争いのない事実、前掲疎甲第八一ないし第八四号証、疎乙第一六〇号証、成立に争いのない疎甲第三五号証の一三ないし一五、第四七、第八〇号証、疎乙第一七、第三四号証、第三五号証の一、二、第九三、第一二七、第一七四号証、第一二一号証の二、弁論の全趣旨を総合すると、債務者主張の(2)の(チ)ないし(ヌ)の事実は七月一六日付および一七日付召集名義の冒用と虚偽の事実を告知した点を除いて、すべて疎明されるところ、右告知の内容が一概に虚偽であると断定できないことは前述したとおりであり、右疎明資料と前掲疎甲第七九、第八六号証、疎乙第一五一、第一五二、第一五八号証、成立に争いのない疎乙第一〇七号証、債権者岡田尋問の結果によると、一七日の緊急総会を召集する件については、教諭のうちこれに積極的に異議を述べたものがなく(ただし、当日の会合に新組合員は不参加)、一七日付召集についての副会長の名義使用については、副会長が一七日の会合の席上これを了承したこと(もつとも、一八日の夜これを取り消す旨打電した。)が、それぞれ疎明されるから、右二件について名義の冒用があつたとはいえない。そして、前掲各資料によると、一九および二〇日の会合の主宰および会則の一部改正、不信任決議に至る経過は、分会側の意向と親師会会員中反会長派幹部の会長排斥の思惑とが互にあいまつてことを運んだものであることが推認できる。

(2)  以上によると、債権者田中、福永ら分会員とこれに同調する岡田が、校長に無断で、かつ、山尾親師会会長の反対(このことは前掲資料から明らかである。)にもかかわらず(二〇日の会合は校長も反対)、一九、二〇日の親師会開催を強行したことは(二〇日の会合における講堂使用について学園側と紛争のあつたことは後述する。)、学園内の紛争に親師会までも巻き込み、学園秩序を著しくみだしたといわざるをえない。したがつて、学園および山尾会長の分会に対する従来の態度、弘禅校長の独裁振り、吉田発言を解雇の予告と分会が受け取るべき事情があつたこと、親師会のなかにも分会に同調する一派があつたこと等を考慮するとしても、本件は就業規則二、三、四条に触れ、違法な組合活動というべきである。

(七月一六日テレビ放送の件)……債権者田中関係

(1)  債務者主張の事実は、前掲疎甲第八五、第八六号証、疎乙第九〇、第一五一号証、成立に争いのない疎甲第五一号証の各一部から、ほぼその主張どおり疎明されるところ(右資料中これに反する部分は採用しない。)、右資料とすでに認定したところによると、分会は、当日朝職員室において、吉田発言を初めて取り上げて丹羽校長補佐を追求し、分会員以外の教諭も積極的でないにしろこれに参加したところ、丹羽は前述したように、「校長はそんなことを考えていないだろう。吉田の臆測にすぎない」旨の答弁を繰り返し、校長からこれについての確認を求めるべき旨の要求にも応ぜず、後刻再度話合う旨の約束もしないまま、テレビ朝礼の時刻がせまつたことを理由に交渉を打ち切つて退席したため、分会長たる田中が丹羽を職員室に呼び戻そうとして本件行為に及んだこと、放送室前でのやりとりは二、三分にすぎず、丹羽の右肘も強く把えていないことが一応認定できる。

(2)  右認定によると、本件行為は、丹羽校長補佐の職員室における応答態度に触発された面がなくはないとしても、朝礼行事までさせなかつたことは明らかに行き過ぎであり、就業規則二、三、四条に違反するとともに違法な組合活動というべきである。

(山尾会長に対する暴行の件)……債権者田中関係

(1)  前掲疎甲第八五号証、疎乙第一〇七、第一六〇号証、成立に争いのない疎甲第五二号証の一、二、疎乙第九七、第一六一号証、債権者松田尋問の結果とすでに認定した事実を総合すると、次の事実が疎明され、前掲資料中これに反する部分は採用しない。

七月一六日午後三時三〇分頃、山尾親師会々長は、当時生徒が吉田発言問題で集会を開いて騒ぎ、また分会が前掲七月一四日付文書で同人を非難攻撃したことに立腹し、職員室において債権者田中に右文書を突きつけてそのやり方をきびしく詰問したところ、両者間で口論となり、田中は大きな身振りで反論し、山尾の手にしていた右文書を引きちぎつたりしたが、他の教師が制止しておさまつた。

(2)  右認定によると、債権者田中に多少粗野な振舞があつたとしても、山尾が興奮して挑発的態度に出たことが右いさかいの発端となつているから、田中だけを責めることはできず、本件は就業規則違反をもつて目すべき程度の違法とはいえない。

(七月二〇日講堂および幼稚園附近での暴行の件)……債権者田中、福永関係(ただし、福永は講堂関係のみ)

(1)  前掲疎甲第八五、第八六、第八八号証、疎乙第一五三ないし第一五五号証、成立に争いのない疎甲第三五号証の二五、二六、疎乙第一〇〇ないし第一〇二号証、第一四八、第一五六、第二〇四、第二〇九号証、債権者松田尋問の結果の各一部を綜合すると、次の事実が疎明され、前掲資料中これに反する部分は採用しない。

七月二〇日午前一一時三〇分頃、前述した当日の親師会の集会につき、学園が山田事務員らをして「使用禁止」の貼紙を講堂入口に貼付させたところ、すでに講堂内に入つていた債権者福永は、可成りの生徒が内部で卓球等をしていることを理由として、右措置に強く抗議し、貼紙のしてある扉を開いてこれを破り、さらに貼紙をしようとする山田の背広左衿附近を引つ張る等して妨害した。債権者田中は、右事態の発生を知るや、直ちに現場に赴き、貼紙を剥がれまいとする山田の左手を払いのけるようにしてその胸にぶつかり、互に相当数の生徒らも見守る前で怒号し合つたほか、さらに、幼稚園正門において、債務者主張どおりの乱暴に及んだ。なお、当日、学園では一学期の終了式があり、本件は右行事終了後の出来事であつた。

(2)  以上によると、本件行為は、就業規則二、三、四条に触れ、これが組合活動としてなされたとしても、許容されるべき範囲をこえた違法なものといえる。

(七月二〇日朝礼時の件)……債権者岡田関係

債務者主張の事実は、前掲疎甲第三五号証の四、第八三号証から疎明されるところ、右資料によると、丹羽校長補佐の発言の前に、村上教諭の当日親師会の総会が開かれる旨の生徒に対する発言があり、丹羽がこれと相反することを述べたため、生徒間に混乱が生じ、かような経緯を経て債権者岡田の発言があつたことが疎明されるから、岡田の発言は、就業規則二、四条に触れるとしても、その違法の程度は著しいとはいえない。

(七月一六日朝礼時の件)……債権者岡田関係

(1)  七月一六日朝の職員室における分会員その他の教諭と丹羽校長補佐のやりとりの模様は、すでに(七月一六日テレビ放送の件の項)述べたところ、前掲疎甲第三五号証の二二、第八三、第八七号証によると、前述したように、吉田発言中には当時いまだ分会に加入せず、中立の立場にあつた債権者岡田の配転も含まれていたため、同人がことの真相を明らかにすることを強く主張し、校長確認の件も同人が提唱し、丹羽の退出後も他の教員とともにその場にしばらくとどまつたことが疎明される。

(2)  右認定によると、債権者岡田の言動が、仮りに他の教員の丹羽校長補佐に対する追求を強める結果をもたらしたとしても、これを債務者が主張するように、岡田が煽動したと解することは困難であり、同人の言動は、当時の状況下では無理からぬともいえるから、就業規則違反をもつて目するに足る程違法なものとはいえない。

(七月一八日朝礼時の件)……債権者岡田関係

債務者主張の事実は、理由がないという点を除いて、成立に争いのない疎乙第一一九号証から疎明され、これに反する疎明資料は採用しないところ、債権者岡田尋問の結果と弁論の全趣旨によると、債権者岡田はかねてから丹羽校長補佐の消極的な言動にあきたらなかつたところ、吉田発言についても依然同様であつたため、その不満を本件で問題とされているような表現で吐露したもので、本心から同人に対する不服従を宣言したものでないことが推認でき、前述したところから窺われる、当時における職員室の雰囲気をも考えると、本件はその言動に軽率のそしりは免れないとしても、いまだ就業規則違反として取り上げるには足りないといえよう。

(債権者成田の暴行の件)

(1)  前掲疎甲第八五号証、疎乙第一五三、第一六〇号証、成立に争いのない疎甲第三五号証の二六、二八、疎乙第九五、第一四〇、第一五七、第一六二、第二〇一号証、弁論の全趣旨から成立の一応認められる疎乙第一九、第二〇号証の各一部とすでに認定した事実を綜合すると、次の事実が疎明され、前掲資料およびその他の疎明資料中右認定に反する部分は採用しない。

七月一九日午前九時五〇分頃、学園が当日の予定を早めて生徒に下校を指示し、生徒がこれに従つて下校を始めたため、分会は、下校時生徒に対し翌日の親師会召集通知を渡そうとしていた予定が狂い、生徒の下校を引き止めようとした。債権者成田は、分会の右意向に同調し、午前一〇時五分頃債務者主張のフオームにおいて、下校途上にあつた数名の学園高校生に対して、再三帰校するよう命じたが、生徒らは担任教諭から下校してよいと言われたことを理由として肯んじないため、そのなかにいた一年生白戸道子および高梨三枝子に対し、他の一般乗客も居合わせた面前において、両名の前額部を各一回手指または拳しふうに指を丸めて小突いた。しかも、本人は、その後被害者の父兄に謝罪しないどころか、父兄から右暴行について告訴されたことにつき、白戸の父兄に対し電話で馬鹿野郎呼ばわりさえした。なお、本人は右告訴につき八月一七日警察公安係から取調べを受けた。

(2)  右認定によると、本件が教諭としてあるまじき言動であり、就業規則二、三、四条に触れ違法であることは言うをまたない。

(顛末書提出拒否の件)……債権者平部、松田、大坂関係

(1)  前掲疎甲第三五号証の六、成立に争いのない疎甲第三五号証の七、一六、疎乙第五八、第五九号証、第六〇号証の一、二、第六七ないし第六九号証によると、債務者主張の(五)、(六)、(七)の各(イ)の事実はすべて疎明されるところ、前掲資料によると、債権者平部、松田関係は、九月四日(日曜日)に学園生徒三十数名が和光学園で行なわれた「青葉学園民主化斗争支援集会」に参加した際、両名も右集会に同席した件についての顛末書の提出であり、債権者大坂関係は、夏期休暇中の八月二六日他の教諭二名と共に生徒らと駒沢競技場に赴いた件についての顛末書の提出であつたところ、前者の集会について、債権者平部らが生徒を誘つたものかどうかは明らかでない。

(2)  右認定によると、学園が債権者大坂のかような行動についてまで顛末書の提出を求めることは行き過ぎといえるから、これを拒否した大坂に上司の指示、命令違反の生ずる余地はなく、債権者平部、松田関係については、参加した集会の性格上、学園において、両名が生徒と集会に参加した経緯につき、その間の事情を知ろうとしたことに落度はないといえるから、両名の拒否は上司の指示、命令に反したといわざるをえないが、第一次処分後間もない時期における学園外での出来事であることをも考えると、これが違法は著しいとはいえない。

(文書配布の件)……債権者平部、松田、大坂、宮島関係

(1)  債権者平部、松田、大坂、宮島が、それぞれ債務者主張の日時、場所において、生徒、一般公衆等に分会文書を配布したことは、当事者間に争いがないところ、前掲疎甲第一四号証、成立に争いのない疎乙第六〇号証の三、第六一ないし第六四号証、第六五号証の一、二、第一四一、第二一二、第二一三号証、第一七五ないし第一七七号証、債権者宮島尋問の結果を綜合すると、本件各文書はいづれも、学園側の第一次処分の正当性と学園の立場等を明らかにする父兄あての文書に対抗すべく、生徒、父兄、さらに一般公衆に対して第一次処分の不当を訴えたものであり、その文言、内容も、かような文書に通常用いられている表現で、とくに不穏当と認めるべきものがないことが疎明される。

(2)  右認定によると、本件文書配布は組合活動として許容されるべき範囲内にあるというべきであり、生徒に対してまでかような文書を配布することに問題がなくはないことは前述したとおりであるが、第一次処分に対し生徒が著しい関心を抱き、学園内の平穏が失われていた以上、これも違法視するには足りない。

(古新聞収集の件)……債権者平部関係

(1)  成立に争いのない疎甲第三五号証の七、疎乙第一〇三、第一六六号証、債権者平部、宮島各尋問の結果によると、分会では、第一次処分被解雇教諭の救援資金に充てるため、生徒からカンパとして古新聞の供出を求める旨決定し、債権者平部がこの旨生徒に伝え、一〇月上旬頃から約一ケ月の間生徒から多数の古新聞を学校に持参させて収集したところ、この間一〇月四日、平部は志津江副校長から右収集の事情を聴取されたが、これにつき別段の指示等はなかつたことが疎明される。

(2)  以上によると、分会のとつた行動は、特に古新聞を学校に持参させた点において相当でないといえるが、学園側においてもこれを放任していた嫌いがあるから、本件は就業規則違反として取り上げるに足る違法なものとはいえない。

(裁判傍聴早退の件)……債権者平部、松田関係

(1)  前掲疎甲第三五号証の六、七、第五三、第七八、第八三号証、疎乙第一五八号証、成立に争いのない疎乙第九四、第一五七号証、弁論の全趣旨から成立の一応認められる疎乙第一六三、第一六四、第一六七号証、債権者平部尋問の結果の各一部を綜合すると、次の事実が疎明され、前掲資料中これに反する部分は採用しない。

一〇月一一日午後東京地方裁判所において、学園から債権者田中ら四名の第一次被免職教諭を相手方とする雇傭契約不存在確認訴訟の第一回期日が開かれる予定になつていたところ、高校生徒中大半を占める六〇〇人近くが右裁判傍聴のため当日集団早退する事態が生じた。その際、債権者平部は、午前一一時三〇分頃、前記黒川教諭が校長の命により生徒に早退しないよう説得しているのを目撃するや、「その先生は新組合の先生だから言うことを聞く必要はない。」、「自分でよいと思つていることはどんどん実行しなさい」と生徒に呼びかけ、債権者松田は、昼休み時間中である午後零時三〇分頃、約四十数名の高校二年五組の生徒に対し、午後裁判の傍聴に行つても早退にならない旨告げた。

(2)  右認定によると、本件は、上司の指示、命令に反して生徒に対し集団早退をあおる等したものといわざるをえないが、大半の生徒が集団早退している一事からも明らかなように、右早退はむしろ生徒側の自主的な動きによるものということができ、このことと債権者らの言動の内容、程度からすると、両名が就業規則二、四条違反の責めは免れないとしても、その程度は著しいとはいえない。

(出入商人に対するカンパの件)……債権者大坂関係

成立に争いのない疎甲第三五号証の三〇、弁論の全趣旨から成立の一応認められる疎乙第七一、第七二号証、債権者宮島尋問の結果によると、債権者大坂は、分会の第一次被免職教諭に対するカンパの決定に従い、学園出入の商人に要請して一〇月七日一〇〇円、同月二八日五〇〇円のカンパを受領したことが疎明されるが、右認定程度の行為は、組合活動として許容されるべき範囲に属している。

(クラス余剰金寄附の件)……債権者大坂関係

債務者主張の事実は、「強要した」とあるのを「すすめた」と改めるほかその主張どおり、前掲疎乙第一六二号証、弁論の全趣旨とこれから成立の一応認められる疎乙第七五号証から疎明され、これに反する疎明資料は採用しないところ、右認定によると、債権者大坂の行為は、相手が女子中学生であるだけに軽率のそしりを免れず、前掲資料から疎明される、右寄附はその後生徒間の話し合いの結果なされなかつたことを考慮しても、就業規則三、四条に触れるといえるが、これが違法の程度は著しいとはいえない。

(債権者大坂の日頃の言動の件)

(1)  成立に争いのない疎乙第七六号証、弁論の全趣旨から成立の一応認められる疎乙第七七号証によると、債権者大坂は、学園祭についての生徒指導に関する校長告示の文書を女子事務員から受け取るや、直ちにこれを破棄した事実が疎明されるが、これ以外に粗野の言動など債務者主張の事実を肯認すべき疎明はない。

(2)  以上によると、債権者の告示文書の破棄は、就業規則二、三、四条に触れるといわざるをえないが、分会と学園との従来の対立関係、第一次処分等の諸事情を考慮すると、これが違法の程度は著しいとはいえない。

四、以上検討の結果に基づいて、債権者らの責任につき順次判断する。

(債権者田中、福永)

債権者田中が、分会結成以来第一次処分に至るまで分会長として、同福永が副分会長として、右処分に至るまで分会活動の中心的役割を演じていたことは、前記認定の事実と弁論の全趣旨から疑いがなく、前記違法と判断したリボン戦術、六月一七日付生徒あての文書配布、施設無断使用、親師会の開催は、両名の企画、指導の下に多数の分会員と共に率先実行したものと推認でき、両名が行なつた七月二〇日の講堂および幼稚園附近における暴行、テレビ朝礼放送の件(ただし、講堂以外は田中のみ)とともに、懲戒事由に該当するところ、特に七月二〇日の親師会開催の強行は、学園の講堂使用禁止の措置を暴力を振つてまでして排除し、親師会々則の一部改正等にまで至らせている以上、これが契機となつた吉田発言を、分会が解雇予告と受けとめざるをえなかつたことに事情があつたとしても、前記強行の手段にまで訴えたのは明らかに行き過ぎであり、吉田発言といつても所詮は一教諭の生徒に対する発言であるから、親師会開催の強行は、その手段、学園秩序紊乱の程度において社会的妥当性を著しく欠き、その情状は最も重いというべきである。

学園に反組合的意図があつたことは前述したとおりであるが、学園として、組合活動の如何にかかわらず、上述したかずかずの違法行為、特に親師会開催を企画、指導さらに実行した者を教諭として学園内に引き続き在職させておくに耐えず、「学校の統制上在職を許されないと認められる」場合に該当すると判断したことは十分肯認することができ、両名に対する懲戒免職の支配的理由もこの点にあつたと推察できるから、右免職が不当労働行為ないし懲戒権の濫用により無効である旨の両名の主張は採用できない。

よつて、債権者田中、福永に対する懲戒免職は有効というべきであるから、この点に関する債務者の主張は理由がある。

(債権者岡田)

債権者岡田に対する懲戒事由として債務者の主張するところは、吉田発言を契機とする七月一六日から二〇日までの言動であり、そのうち問題として取り上げるべきものは親師会開催の一点に帰するところ、同人の教務筆頭としての立場からして、右開催につき同人の発言が大きな役割を果したことは推察するにかたくはないが、吉田発言が一教諭の発言であるとしても、その内容に当時分会に加入せず中立的立場にあつた同人の配転が示唆されていた以上、右発言に対抗する分会の動きに同調して自らの地位を守ろうとする態度に同人が出たことは、当時の状況下において無理からぬ点が少くないといえる。したがつて、親師会開催により父兄を学園紛争にまき込む事態に至らせたことは、弁解の余地がないとしても、右一事を把えて「学校の統制上在職を許されない」場合に該当するとして懲戒免職に付するのは、処分事由と処分の程度に著しく均衡を欠き、明らかに行き過ぎといえるから、右免職は少くとも懲戒権の濫用により無効というべきであり、この点に関する債権者岡田の主張は理由がある。

(債権者成田)

債権者成田の行為は、なんら落度のない生徒に対し、分会と学園間の紛争からして暴行に及んだものであり、しかも心情の殊に動揺し易い高校一年生の女子に対し、駅のフオームにおいて公衆の面前で敢行したものであるから、その情において宥恕すべき余地はないといえる。しかし暴行それ自体の態様、程度は、手指または拳しふうに指を丸めて二名の生徒に対し各一回前額部を小突いたものにすぎず、本人は、その後暴行は否定しているが、被害者に対する暴言も、右程度の暴行を相手方が告訴し、このため警察の取調べを受けたことに因るものであるから、かような諸事情を考え合わせると、本人が懲戒処分に付せられるのはやむをえないとしても、いまだ本件行為が「学校の統制上在職を許されない」場合に該当する程度にまで達しているということはできず、他に本人が、日頃粗暴な言動がある等の事情の認められない本件では、同人を本件暴行により免職処分に付することは、処分事由と処分の程度に著しく均衡を欠き、明らかに行き過ぎといえるから、右免職は少くとも懲戒権の濫用により無効というべく、この点に関する債権者成田の主張は理由がある。

(債権者平部、松田、大坂)

債権者平部、松田、大坂に対する懲戒事由として債務者の主張する事実のうち、これに該当するものは、平部、松田については、顛末書提出の拒否と生徒早退の件であり、大坂については、クラス余剰金寄附と告示文書破棄の点であるが、これら行為の違法の程度が必らずしも著しくなかつたことは前述したとおりである。そして、債務者が松田、大坂に対する情状として主張するところは、当事者間に争いのない事実と成立に争いのない疎乙第四八、第五二号証によると、松田は、債務者主張の抗弁(一)の(1)の(イ)ないし(ト)および(2)の(チ)ないし(ヌ)の各行為を共にしたことを理由とする八月分の俸給の十分の一の減俸、大坂は、七月一九日の授業終了時下校する生徒を引き止めるべく無断で放送したことを理由とする教戒の各懲戒処分であることが疎明される。

以上のように、従前の懲戒処分の程度は重くはなく、本件で問題にされている行為も前述の程度にとどまつていること並びに債権者らの分会員としての前記組合活動を合わせ考えると、右免職はむしろ債権者らの組合活動を嫌悪し、同人らを学園から排除しようとしてなされたものと認めるのが相当である。

よつて、債権者平部、松田、大坂に対する免職の意思表示は、労組法七条一号の不当労働行為として無効というべきであるから、この点に関する右債権者らの主張は理由がある。

(債権者宮島関係)

すでに述べたところから明らかなように、債権者宮島に対する免職事由は、組合活動として許容されるべき範囲に属しているものに基づくものである以上、同人に対する免職の意思表示は、労組法七条一号の不当労働行為として無効というべきであるから、この点に関する債権者宮島の主張は理由がある。

五、債権者田中、福永の本件申請は、以上の次第で、被保全権利の存在について疎明がないところ、その余の債権者らに対する免職処分はいずれも無効であることが一応認められるから、同人らと債務者との間には依然雇用関係が存続し、同人らは債務者に対して労働契約上の権利を有しているというべきであり、債務者が免職を理由として同人らの就労を拒否する限り、その就労不能は、労務給付の債権者たる債務者の責めに帰すべき事由によるものというべく、その債務者たる債権者らは反対給付たる賃金の支払を受ける権利を失わない。

弁論の全趣旨によると、債権者田中、福永を除くその余の債権者らは、債務者から支給される給与を唯一の生活の資としていることが認められるから、他に恒常的に就職して収入を得ている等の特段の事情のない限り、本案訴訟による救済を受けるまでの間、債務者から教諭としての地位を否定され給与の支払を拒まれるときは、生活に窮し著しい損害を蒙るおそれがあると推認するのが相当である。

債権者岡田、成田、平部、大坂、宮島の各免職当時における給与月額がそれぞれその主張する額であること、債権者松田のそれも三七、九八〇円の限度において、いずれも当事者間に争いがなく(債権者松田の免職時の給与月額中右の額をこえる分の疎明はない。)、給与支給日が毎月二一日であることは債務者の自認するところである。

以上からすると、昭和四一年九月一六日から本案判決確定に至るまで毎月末日限り、債権者岡田に対し一ケ月五六、八四〇円、同成田に対し一ケ月二七、四七〇円の、同年一二月一六日から本案判決確定に至るまで毎月末日限り、同平部に対し一ケ月三七、五八〇円、同松田に対し一ケ月三七、九八〇円、同大坂に対し一ケ月三一、八六〇円、同宮島に対し一ケ月三一、六七〇円の、支払を命ずるのが相当である。

六、よつて、本件申請は、債権者田中、福永についてはその申請はすべて理由がなく、同松田については右の限度を超える部分は認容するに由ないから、いずれもこれを却下することとし、その余の債権者(松田を含む)らについては、被保全権利の存在およびこれが保全の必要性について疎明があるから、同人らに保証を立てさせないで主文一、二項記載の処分を命ずるのを相当と認め、申請費用の負担につき民訴法八九条、九〇条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浅賀栄 宮崎啓一 豊島利夫)

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